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「……全く…昔からそういう傾向はあったけど
もうちょっとこう…言葉が足りないと言うか
なんと言うか……」
日中の出来事を思い出しながら、一人溜息を零す
積極的なのは嫌いじゃないけれど、もうちょっとこう
事前に色々と予備動作というかなんと言うか…
「……まあ、そのあたりはちゃんと面と向かって
要望つーか…言ってみるか。それぐらいは通じるだろ」
自分の部屋の、自分の机。その上に置いてある鏡に
自分の顔を映しながら静かに呟く
敢えて貰った直後につけずに持ち帰った髪飾りを
そっと銀色の髪に馴染ませるように据えた
いつもの髪飾りはお休み
そして先ほど髪を撫でた
あの人の手の感覚を確かめるように
同じように自分の髪を撫でたら…
とるるるる とるるるr
「…ちょっと付き合え。いつもの本屋で。じゃ」
びっくりさせられた仕返しに
言うだけ言って放り投げなお誘い一つ
それが何時でもお構いなし
たまにはわがままを言ってもいいじゃない
たまには(ここ重要)
電話のすこうし前
自室でベッドに腰掛けながらの夕刻。
待てのできない犬と同じ己の手を見下ろして、薄く息を吐く。
嫌なことをしたいわけではないけれど、触れたい。
けれど、とつけてしまうあたりに自己主張ばかり通したがる己を見つけて渋い顔になる。
もう一歩待って、せめて、……「触れたい」と口にすれば何か違うだろうか。
「……どれ程飢えているのか」
別に、その行為が直接体を繋げることへと続かなくても構わないのだけれど。
どちらにしても、己の望むままに動きすぎていたのは確かであって。
もう少し一人でいられるようにならなければいけないのかも知れない。
親指と人差し指の腹を擦り合わせて、既に先程触れた髪の感触を思い出そうとしている辺り重症な気がしなくもないが、そんなことをぼんやり考えていた矢先の、電話。
「なん ……」
言うだけ言って切られる。
何だどうした、とすぐに腰を上げて外へと出てゆく。
多分電話をした彼女よりも先に辿り着いてしまう己の足。
やってくる彼女の銀糸を彩る飾りを確認したら、いつもより少しだけ柔らかく笑うのかも知れなかった。
(きっと少しは喋ろうと努力するはず)(手より先に言葉、言葉)(口も使わないと滑らかにはならないもの)